思えば、“あの” Technicolorが EOS 5D MarkII 専用のピクチャースタイルを開発しているらしい?というニュースを目にして「えぇぇっ!」と驚いたのが、4月の NAB会場からのレポート。実際に Technicolor CineStyle という名のピクチャースタイルが公開され、raitank blog でご紹介したのが5月1日。それから8月末までの4ヵ月間、123日。世界中の EOSユーザーが、こと撮影時の基本的な絵作りに関しては、『我らは生涯揺るぎない金科玉条を手に入れた!』と確信していました。
ところが。4月末のリリース直後から(日本以外の)世界中で熱狂的に迎えられたこの革命的ピクチャースタイルは、たかだか4ヵ月で(!)グローバルにその旬が終わろうとしています(ホントか!?…いや、以下を読んで、ご自身で判断を!)。
まずは、ボクの個人的な体験からお話ししましょう。
今回、このポストを書くにあたり、これまでの4ヵ月間に一体何回 Technicolor CineStyle(以下、T.CineStyle)を使って撮影してきたか?数えてみました。結果、32回も(仕事で19回/個人で13回)使っていたことが判明。…ま、ボクの場合、まだまだ練習が必要なノービスだからという理由もありますが(汗)、これは相当な場数です。
特に今年は3回も海に行くことができたので、その度にわざわざかさばる 5D MarkIIを担いで行っては、勝手に始めた自主企画「One Lens a Day」を撮影したりもしました。…ところが、ある時以降、にわかにコレが気になり始めたのです。
⬇ ⬇ ⬇
EOS で空を写す度に多かれ少なかれ現れる縞模様。通称、カラーバンディング(Color Banding)。モアレ(虹色パターン)、エイリアシング(極細線チラチラ)と並んで、EOSの “精度の低い” H.264 圧縮が原因で起こるとされている欠陥です。そして、脅威のダイナミックレンジを実現する我らが T.CineStyle を使うと、このカラーバンディングの発生率が異様に高くなることがわかってきました。
フォーラムで 1-300さんが仰った名言を引用させてください。
T.CineStyleと S-curveLUTって、あんまりお金を持っていないのに(8-bitしか)貯金ばかりして 日常生活で ひいひい 言ってる様なところがありますね。
広い D-レンジが必要な時はとても有用ですが、かならず諧調性がトレードオフされることを覚悟しなければなりません
まさに至言!そして、実は T.CineStyleが世に出て間もない6月早々、すでに同じことを指摘している人が海外にいました。
▶ The Lenskiller | Technicolor CineStyle Picture Style TEST on 5D Mark II – PART 3
こちらのサイトで、T.CineStyleに関する考察を行っている LensKillerさん曰く…
if you look at the sky you’ll see in the image by Technicolor the usual issue of color banding, but you will also notice a greater flatness of color. In other words, the price we paid to see better in the shadows has been sacrificed the midtone contrast and have produced the banding. Was it worth it?
T.CineStyle で撮影した空には、カラーバンディングが出る。しかし同時に、色彩が極端にフラットな(=シャドーが潰れてない)こともわかるだろう。言い換えれば、シャドー部のダイナミックレンジと引き換えに、中間調のコントラストが犠牲になっているわけだ。で、果たしてそれでいいのか?
If you add contrast to an image by the Technicolor CineStyle, you will notice it in gradients, such as the blue sky. This happens for any kind of gradient, also the light falling on a wall, indoor, for example. This horrific artifact that still afflicts the codec of the 5D, is less intrusive if you use a normal or standard profile. In fact, the native contrast of the standard / normal does not require big changes. Technicolor CineStyle instead requires a change, more or less strong, and this generates a proportional banding.
T.CineStyleで撮った絵のコントラストを上げると、青空のような連続階調部分には必ずカラーバンディングが出る。これはありとあらゆるグラデーション、たとえば室内で照明があたっている壁などでも事情は同じだ。5D MarkII の劣悪な圧縮コーデックによって生じるこの薄気味悪いパターンは、キヤノンが用意した「ノーマル」や「スタンダード」ピクチャースタイルを使うぶんには、それほど目立つことはない。というか、「ノーマル」や「スタンダード」を使う限り、そもそも編集時にコントラストを上げる必要がない。ところが、撮影後のグレーディングが必須の T.CineStyleでは、編集時に(REC.709に戻すために)コントラストを上げる過程でカラーバンディングが誘発されてしまう。
「驚嘆」>「熱狂」>「実用」>「信頼」>「信仰」と進んで、世界中で急速に信者を増やしてきた T.CineStyleでしたが、ボクの中では8月末の時点で、ある違う考えが頭をもたげてきました。
5D MarkII と付き合う限り、実質的に一世代前の H.264圧縮との縁が切れない。つまり、どんなに素晴らしい絵が撮れたところで、メモリーカードに書き込まれる時点で、すでに品質が落ちることが必定。だとしたら、実は「グレーディング(=後処理)が前提」という T.CineStyleの考え方は、とてつもなくナンセンスなのではないか?
⬇ ⬇ ⬇
もともと階調、Dレンジともに乏しい8-bit、4:2:0のデータで最大画質を堅持する為には、T.CineStyleのアプローチとは全く逆に、撮影後できるだけコントラストや階調をいじらなくても良い状態、いわば「撮って出し」でそのまま使えるデータを記録するのが最良ではないのか?
…とまぁ、実際にはココまで明瞭に言語化されていたわけではありませんが(笑)、つらつらそんな事を考えながら、どうしたら「撮って出し・グー」なピクチャースタイルが作れるかしら?と試行錯誤を始めたのでした。
…そしたらアータ! ナンと!こちら方面にも先駆者が…(汗)。
日本時間の昨夜、スイスの cineplus社という制作会社に勤める John Hopeさんという人が、今後数日以内に「EPIC」という名のピクチャースタイルをリリースすることを発表しました。
▶ cineplus
▶ Vimeo | First test of the new amazing EPIC Picture Style on 5D
Keeps details on shadows and highlights while remaining quite contrasted. – Vivid colors on low saturated areas, no greyish or monochromatic cast – Analog like colors on high saturated areas – Very sharp image, – Ektachrome colorimetry – Doesn’t need color grading – Best usage of the 8 bit codec.
EPICピクチャースタイルは、シャドーとハイライトのディテールを維持したまま、高いコントラストを実現。コダック・エクタクロームの色彩を正確に再現し、彩度の低いエリアにもビビッドに色が乗ります。グレーやモノクロの色かぶりは一切なし。彩度の高い部分はアナログフィルムの味わい豊か、そして全体的にとてもシャープ。グレーディングが不要な EPICは、8ビット・コーデックの最良の使い方です。
あちゃっ、ヤラレた!完璧に同じコンセプトやん…。
で、Vimeo に掲載された、その EPICピクチャースタイルで撮影された映像はこちら。
さて、皆さん。この Hopeさんのピクチャースタイルで撮った絵が好きか嫌いか?という問題ではありませんので、そこのところを誤解されませぬよう。そうではなくて、ここ4ヵ月というもの、「ピクチャースタイルといえば? もちろん、T.CineStyle!」だった世界の HDSLR 界が、また新たな方向へとダイナミックに舵を切り始めたのかも!?ということを実感して頂けたらと思います。
…などと、書いておりましたら、3rd Eye さんがフォーラムで「CineStyleは僕はもう二度と使うまいと決めました」と、決意表明を書き込まれていたりして。
どうやら、今までディープに使い込んでいた人ほど、“オワコン感” が強いようですね?? >T.CineStyle (笑)
14 Comments
http://www.youtube.com/watch?v=810ukIs3fMs&NR=1フル尺版
今更,って感じのコメントになりますが(笑)リンクの映像はすべて7D+cinestyle 使用してます。グレーディングでEOS特有の質感というか色身というか安っぽさを消すのには有効だと思います。バインディング出る状況も大体見当がつく様になりました。
シネスタイルに依存しないで使えば,使い方次第てなんとでもなるような。
・・・でこれは使ってみて,皆さんの「オワコン」意見を聞いてみて,更にC300が5D発売当初から開発されていてサードパーティーと共有していたという情報を合わせて考えた「憶測」なんですが,キャノンはテクニカラーとも情報を共有しているのでは?
4:2:2なら、バインディングノイズが凄く出にくくなるとか。始めからそのつもりで(C300用に)作ってるとか(笑)いや妄想です。
田中さん、ども!(^_^)v 今日ちょうど 1-300さんとその辺りのお話をしていたんですが、C300には「ピクチャースタイル」機能がないんですよ(!)。さらに、先日発表された次期 1-D Xが DIGIC 5を2基も積んでくるというのに、C300に入っているプロセッサは、いまさら?いまどき?の DIGIC DV…。これが何を意味するのか?というと、(思いきり推測ですが)C300の中身って、センサーが抜群に革新されてはいるものの、他は 4:2:2まで含めて(EOSとは全然関係なく)まんま XF305のままなんじゃね?ということですね(爆)。
で、もしこの推測が正しいとしたら、C300はやはり「単なる第一弾」に過ぎないのかな〜?と。本命は、ズバリ来年夏に出るらしい Cinema EOS 4K以降! …と、ボクは見ているのですが、さてどうでしょうか?
はじめまして、初コメントです。
以前からとても勉強になる記事の数々、拝見させていただています。
僕はVFXの実写合成をメインで作品を作っているのですが、個人作品でCineStyleを使う機会がありました。ハリウッド映画のメイキング等でもよく目にするカラーグレーディング前の映像と同じものが!!と半ば興奮気味にCineStyleに酔いしれて、意気揚々と使っておりました…(笑)しかし、まさかバンディング等の問題があるとは…
今回撮影したものは、見た目は良好なので問題なさそうですが、今後はちょっと考えものですね。
またCGと合成する場合は、CineStyleだと一度リニア戻すなどちょっとやっかいな事もありそうなので、そういったあたりも今後研究していきたいと思います。
ぎょええ〜〜! Yukisさん! Mayhem,すんげぇ〜! ていうか、Yukisさん大学生? 最近の大学生ってこんなハリウッド映画みたいなVFX作っちゃうんですか!? それとも、Yukisさんが特殊なの? 超ビックリして腰抜けそうなんすけど。。。っていうか、Yukisさんのサイト、「お友だちサイト」に追加させて貰ってもいいっすか?(もう追加しちゃったけど(笑))
> よく目にするカラーグレーディング前の映像と同じものが!!と半ば興奮気味にCineStyleに酔いしれて、意気揚々と使っておりました…(笑)
いやあ、おじさん達も… いやその、僕らも全く同じだったんですよー。興奮して酔いしれて、意気揚々と使っていたんです、この4ヵ月間。でも、使い込めば使い込むほど「コレって正しい方向なんだろうか?」って疑問が鎌首をもたげてきて。そしたら、実は僕らだけじゃなく、世界中で「ホントにこれでいいのか?」ってな風潮になってきて、といった流れですねぇ。
いやでも、そんなことより!(…もはや「そんなこと」呼ばわり(笑)) もっとYukisさんの作品とか見せてくださいよ!!ぜひぜひ。
あ、ありがとうございます!!今丁度大学3年です。
いえいえ、僕の作品なんかしょうもないです!(笑)
サイトに載っているものは、実はCineStyleで撮影したものはありません。カメラはすべて学校からの借り物で、Mayhemに至ってはお母さん向けの小型ハンディカムで撮りました(笑)最初はDOFアダプターなんかに挑戦しようと思っていたのですが、ちょっと手が出せませんでした。。
CineStyleで撮影したものは丁度今制作しているところです。
20秒ないくらいの凄く短いものですが、出来たら是非お見せします!
実は僕はraitankさんの作品の大ファンです。
もうボケ具合からカラコレから、何から何まで素晴らしいです!
めちゃめちゃ参考にしてます!(笑)
これからも素晴らしい作品を楽しみにしています!
おじさ… いや、ボクの方こそ(この歳で!)色々まだまだ勉強中で、この raitank blogなんてその勉強の過程を公開し続けているだけのサイトっすから(爆)。今後ともひとつよろしくお願いします。
いやあそれにしても。ボクが大学生の頃は壊れかけでボロボロの16mmカメラに白黒フィルムつめて走り回ってたもんですが、隔世の感ひとしおですね。そういえば!史上初の “パソコン”、初代の Macが発売されたのが、ちょうどボクが大学3年の時でしたよ…(遠い目)。
http://www.cineplus.ch/cinema.html
でましたよん。19ドル。 フリーじゃねぇ。。。
はい〜、ただ今、記事を公開したところで…(笑)。
やっぱ無償公開じゃないってところ、引っかかりますよねぇ??
raitankさん!
ぜひこの記事ご覧ください!基本中の基本だけど、こうやってビデオで目の当たりにすると、おお!!!と思います。
続きはポストのカラーグレーディングだそうで楽しみです!
http://stillmotionblog.com/2011/09/06/the-sm-color-tutorial-part-one-in-camera-deconstructing-the-story/
もう最後の8:30秒のラインが洒落ててしびれますよ。
はい! RSSが回ってきて、ボクもつい30分ほど前に拝見したところでした(笑)。やっぱり、一時期の「なんでもかんでもT.CineStyle」な風潮が、グローバルに終わりを告げつつあることを感じますね。そして、Back to the Basic。そんな、グレーディング前提なんて偉そうなこと言ってないで、カメラの中でなんとかしようゼ!みたいな…(笑)。
僕もテクニカラーを何度か使いました。
しかし、バンディングが頻発する事実には気づいておらず、
テクニカラーを最後に使った作品でカラコレの時に空が大変なことになってしまいました。
今回は空が重要だったのに。。。と思いながらコントラストをあまりいじらず、
色の転がしもかなり気をつかって時間も使いました。
個人のプロジェクトだったので、だれに迷惑をかけることもなかったのですが
自分の作品だから、煮え切らない部分もありますね。
EPIC、是非試したいと思います!
あぁ、akiraさんもやられてしまいましたかー。これ、カラコレの時に初めて気づいてビックリするパターンですよね。で、なにが悪かったんだろー?って思うんですけど、最初の内はよもや Technicolor様が原因だとは思いもよらないってんですから、ブランド力ってのは本当に困ったものです(爆)。EPICはボクも期待しています。そして同じ考え方に立脚した、「撮って出しグー」なピクチャースタイルがもっと出てくることを願っています。。。
これいいですね~ しかもEPICというなんというかユニーク(笑 な名前が興味深い。
でもサードパーティのものはこりごり。
つーか、実用の前にはちゃんと入念に検証しないといけない、という当り前の作業を怠ってはいけないと痛感しました。テクニカラーという名前に負けました。
EOSは基本グレーディングしない、というCineStyle以前のやり方に立ち返ります。
3rd Eyeさん、お疲れさまです。
いやしかし。お互い、ホントに「テクニカラー」ブランドに負けましたね。でもなんてったって、泣く子も黙る “あの” テクニカラーですからね。こりゃ負けても仕方ないのかな?と。
EOSは基本、グレーディングしない。うん、ボクも激しく同意します!
One Trackback
CineStyle – ほぼ1年目の真実
目次 1. 前置き 2. CineStyleなるものが存在する背景 ・ピクチャースタイルとRAW・JPEG ・動画撮影とピクチャースタイル ・銀塩フィルムとLog ・デジタル化とLog ・LOG撮影 ・CanonデジイチとCineSty…