Canon Expo 2010 に登場した4Kビデオカメラ

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9月2日、3日の二日間に渡り、ニューヨークで Canon Expo 2010 が開催されています。Canon Expo は5年に一度開催される同社の一大イベントで、このニューヨークを皮切りに、今年の後半にかけてパリや東京でも開催されるようです。
もともと招待客しか入れない純然たるビジネスショーということで、日本では報道すらされていませんが(されてます?)、オープニング前日の1日に行われた VIP オンリーのプレイベントには Vincent Laforet 先生、Philip Bloom 先生をはじめとする DSLR ムービーの花形たち、スターゲイトスタジオの Sam Nicholson 師やルーカスフィルムの Rick McCallum 卿など、それはもう蒼々たる顔ぶれの、業界の重鎮たちがこぞって詰めかけたようです。

海外の DSLR ムービー系のブログでも、かなり採り上げられています。

▶ Philip Bloom Canon 4k concept camera and first images from Canon Expo in NY
▶ negative space Canon 4K “Concept” Camera, etc.
▶ Rob Galbraith Canon Expo 2010 kicks off in New York
▶ Cinema 5D Canon Expo 2010. Canon 4K Concept Camera. 2/3″ Sensor.
▶ The Luminous Landscape Canon Expo 2010
▶ Film and Digital Times Canon Expo 2010 New York


中でも話題になっているのは、4K(水平方向4,000画素=いわゆる HD の4倍密以上)で撮影できるビデオカメラのコンセプトモデル。これはあくまでも “コンセプトモデル” であって、市販化を前提とした “プロトタイプ” ではないそうですが、ユーザーサイトや個人ブログでは、一瞬だけ『すわっ!遂にキヤノンが RED に宣戦布告!?』と盛り上がりました。
ただ、これは撮像素子が2/3インチの CMOS であることから、デジタル一眼による DSLR ムービーの進化形ではなく、どちらかというと業務用ビデオカメラの延長といった位置付けのようで、Philip Bloom先生をはじめ多くのネット上の反応は「おもしろい!…けど、ちょっと肩透かしぃー」といった感じに終始しています。


Philip Bloom 先生は「へー、そう来たんだ、へー」という反応ですが、Red Giant Software 社 Magic Bullet シリーズの生みの親である Stu Maschwitz さんは、この4Kコンセプトカメラを展示したキヤノンに対して、あからさまに不快感を露わにしています。そして、その不快感の内容がはなはだ説得力のあるものなので、ちょっとご紹介します。

ProLost : Ha ha very funny Canon now get back to work

Ha ha very funny Canon now get back to work

Canon Expo kicked off with a bang as the venerable imaging giant stunned crowds with its working prototype 4K camera! Is this the future of digital cinema?

Ug. I think I just threw up in my mouth a little.

There’s so much wrong with this prototype “concept camera” (as Philip kindly points out below, it’s important to understand that this is not a camera Canon plans on bringing to market) that I hardly know where to begin. It’s an atrocity of aesthetics and ergonomics. It has a fixed, not-very-special 20x zoom lens. The sensor is only 2/3”. It shoots 60fps. Nothing about this camera reflects any awareness of what digital cinematographers want.


はは、キヤノンのくだらんジョーク。さぁ仕事に戻ろ

Canon Expo が開幕し、このご立派な画像処理業界の巨人は、4K解像度の実際に撮影できるビデオカメラのコンセプトモデルを発表して人々を驚かせた。

オエッ。ボクはちょっと吐きそうになった。

この “コンセプトカメラ” はどこから指摘したら良いのかわからぬほど、あらゆる面でダメダメである。醜悪な造形とエルゴノミクス。レンズは平々凡々な20倍ズームで固定式。撮像素子は2/3インチで 60fps 記録。要するにこのカメラには、僕らデジタル・シネマトグラファーが望んでいる要望が、ただの一つも反映されていない。


Canon, please stop building fake “4K” video cameras when you can’t even make an SLR that shoots actual 1080p HD.

キヤノンよ、本当の1080pHD 映像を撮れる一眼すら作れないくせに、売る気もない4Kカメラのハリボテを作るのはやめてくれ。

…と、辛辣きわまる筆致でキヤノンの4Kコンセプトモデルをばっさり切った Stu Maschwitz さんではありますが、彼は業界でも名の知れた最初期からの 5D MarkII、7D ユーザーであると同時に、“モアレの回避法” や “グレーディングに向けたフラット収録のセッティング法” など、一眼レフカメラを使った映像収録の制約を取り払う提言・提案を広く提供してきた筋金入りのEOSムービー功労者です。その彼をしてここまで苛つかせてしまったのは…
いえ、もちろんキヤノンさんとしては、自社の業務用ビデオカメラも売りたいのでしょうけれど(失笑)、5D MarkII、7D、先日発表された 60D と “帯に短したすきに長し” な機種ばかりを連発し続けて、一向に「決定版」を出さないその企業姿勢には、Stuさんならずとも、みな少々うんざりしてきているのは確かでしょう。

さて、氏はここからさらに “EOS ムービーの本当の問題点” に斬り込んでいきます。

We’ve discussed the very real aliasing/moiré issue with Canon’s HDSLRs. It is both a real problem and a somewhat workable limitation that many happily accept. What is not in dispute is that these are symptoms of a poorly-sampled, low-resolution image. Readers of this site know that I am not a spatial resolution fetishist, but even I am painfully aware that my 5D and 7D footage is lacking detail.

キヤノンの一眼で撮影する HD 映像に起こる「にじみ」と「モアレ」の問題は、以前、別のポストで詳細に検分した(▶ ProLost : You Didn’t Believe Me)。これは大問題ではあるけれど、どうにか回避することも可能な制限として受け入れた。ただ、この問題の原因が、実は低解像度のライブビュー映像をイイ加減にサンプリングして記録しているから起こるのだ、ということに関しては、まだきちんと指摘していなかった。このサイトの読者なら、ボクが決して解像度フェチなんかではないことを知っているだろう。それでも 5D MarkII や 7D で撮る映像は、明らかに解像力不足であることに気づかざるを得ない。

ココから先は、Stu Maschwitz さんのサイトに掲載されているサンプルの画像をご覧になりながらお読みください。▶ ProLost

Canon makes it incredibly easy to demonstrate this, since the 5D Mark II that makes such fuzzy pseudo-HD video also makes ridiculously high-fidelity stills. The frames below are a 1:1 frame grab from a 5D video, and the same scene shot as a still and then scaled down to 1920×1080. I did the scaling in Lightroom, using no Develop or Output Sharpening.

キヤノンのカメラが素晴らしいおかげで、ボクの言っていることが事実であることは、誰が見てもすぐにわかる。イヤになるくらいボヤけたパチモン HD の映像しか撮れない 5D Mark II は、同時にバカみたいに綺麗な静止画を記録できるのだ。以下のサンプルは、5D MarkII で撮影した映像から原寸で切り抜いた画像と、同じ風景を静止画として記録したデータから同じ部分をくりぬいて、HD 解像度に縮小したものだ。縮小は Lightroom で行ったが、現像時にも書き出し時にも一切シャープネス処理はしていない。

The difference is staggering. And remember, I don’t even care all that much about spatial resolution. What I do know is this: a sharp 1920×1080 camera can make an image with more detail in it than most female movie stars are comfortable with for close-ups. So for today we can dispense with a discussion about the merits of mastering at 4K. Canon is nowhere near that conversation with their HDSLRs. They’re still falling way short of HD.

To be clear: What you are seeing above is two different ways that the same camera made a 1920×1080 image. One image was hastily yanked off a sensor (skipping entire rows of pixels) and then compressed to H.264 in realtime; the other was captured as raw 5.6K bayer data, decoded slowly to RGB by an engine optimized for quality, then downsampled to HD using every 5.6K pixel to build a 1920×1080 image with as much detail as appropriate for a true HD image.


この違いには呆然とするしかない。もう一度言うが、ボクは解像度至上主義者ではない。
ボクが知っていること:“ちゃんとした” 1920x1080 解像度のカメラは、多くの女優たちがクローズアップで撮られることを躊躇するくらい、ディテールを写し撮ることができる。このことを知っていれば、本物の4K映像で撮影し編集することのメリットは、本来、議論する必要すらない。だがキヤノンの一眼レフカメラは、まだまだそんな議論の遙か手前にいる。まだちゃんとした HD 画質ですらないのだから。
ハッキリさせておこう:ここに掲載したサンプルは、同じカメラが2つの違うやり方で出力した 1920x1080 サイズの画像である。片方は、センサーが受けた情報をバッサバサ間引きながら液晶に表示した荒いデータを、リアルタイムで H.264 に圧縮したものからの切り出し。もう片方は、横 5.6Kのセンサーが受けた情報を、高品質な画像処理エンジンがゆっくりと RGB に変換し、その全画素情報を HD 画質に相応しく最適化してちゃんとした 1920x1080 に切り出したもの。


Does the latter sound unfeasible for “real” video work? Well it shouldn’t — it’s what we do with our RED One cameras now.

実際の制作の現場では、いちいちそんな込み入った処理なんてやらないだろうって? そんなことはない。僕らは RED ONE のデータでは、まさにこの作業を毎回やってるんだから。(後略)

以上、Stu Maschwitz さんのいらつき全開の嘆きですが、かたやそうしたプロユーザーの要望や願いを完膚無きまでに無視し続けるメーカーの動きなど最初からアテにせず、世界の “現場” では今日も DSLR の制約を “工夫で回避” しつつ、業務実用化へ向けた取り組みが進んでいます。 HD Magazine が第一報を伝えるところによりますと、なんと!あの英・BBC では、ドラマを 5D MarkII で撮影することが初めて許可されたそうです。

BBC といえば、日本でいうところの NHK。収録に使う機材の選定、技術スペックは、当然、非常に細かく規定されており、今まではドラマ収録には SONY の HDW-750 P+S Technik の Pro35 という35mmレンズアダプターを装着したセット、レンズはニコン製を使うこと、と厳密に決まっていたそうです。ところが今回、この厳しい BBC の機材テストに果敢にチャレンジした制作チームは…

いや。もう翻訳に疲れたので、続きは以下のリンク先にて、ご自身でお確かめください。
HD Magazine : BBC Green Lights Use of Video DSLRs

[9月4日追記:ボクが翻訳に疲れているあいだに、英・BBCでは今度はコメディのバラエティシリーズが、5D MarkII で収録されたそうです(汗)。そのうち、BBCの正式な “局カメラ” になっちゃうんでしょうか?(笑)]
HD Magazine : Another BBC Series Shot On The Canon 5D Mk2

2 Comments

  1. ぬほりん
    Posted 2010/09/04 at 11:06 | Permalink

    うん、オラもStu先生の意見に賛同だど。
    あのブログの画像を見て愕然としてたので、翻訳作業ありがとさん。
    ところで「キャノン」ではなくて「キヤノン」だど。
    かわせみの変換候補にもあるからw

    • raitank
      Posted 2010/09/04 at 11:39 | Permalink

      タイムラプス撮影する人は、この違い、みんな知ってますよねー。
      早いはなし、5D MarkII に HD-SDI 端子付けてセンサー出力を垂れ流してくれるだけでいいのに、どうしても「ビデオはビデオカメラで」って路線を崩したくないんでしょうか? やれやれですね…
      「キヤノン」に直しました。ありがとさんでした。

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