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[raitank fountain]Vol.05 クラウドファンディングで始める映画制作とは?
※ 本記事は PRONEWS連載コラム「raitank fountain」に、2012年4月3日「[raitank fountain]Vol.05 クラウドファンディングで始める映画制作とは?」として掲載された原稿を再録したものです。
皆さん、先日公開された「小寺信良の業界探検倶楽部 Vol.24」はご覧になりましたか?今回、NOBさんが紹介してくださったのは、“Kickstarter” というWebサービスを中心にアメリカで盛り上がりをみせる「クラウドファンディング」と、その日本での先駆けとなるかも知れない株式会社Cerevoさんの試みでした。
▶ [小寺信良の業界探検倶楽部]Vol.24 クラウドファンディングで始める物作りとは?
実はなにを隠そうボクもここ数ヶ月のあいだ、今アメリカで一番熱い話題であるクラウドファンディングには大いに注目していました。そして、『いいなぁKickstarter、日本でもやればいいのに!』などと思っていたら、実は日本にはCerevoさんがいたんですかそうですかというオチ。相変わらず海外ソースにばかり睨みをきかせ、灯台もと暗しなんだなぁ…。NOBさん、ありがと〜!というわけで、今回はNOBさんリスペクトでタイトルを真似てみました。
■ JOBS法案がクラウドファンディングを加速する!
さて。なぜ今、アメリカでクラウドファンディングが熱いのか!?というと、昨年議会に提出され、下院を無事に通過したあと上院でまさかの承認保留となり、法制化が危ぶまれる事態に陥っていた「JOBS法案(JOBS Act)」がようやくこの3月28日に上院を通過し、あとはオバマ大統領のサインをもらうだけ!になったからです。
…念のために申し添えておきますと、「JOBS法案(JOBS Act)」といっても昨年お亡くなりになったAppleの前総帥とは関係ありません(笑)。
▶ FilmMaker : CROWDFUNDING BILL STALLS IN THE SENATE
ここでのJOBSは “Jumpstart our Business Startups” の頭文字であり、意訳すれば「起業を活性化する法案」とでもなりましょうか。この法案の是非を巡り、米議会の二院・両党で議論の的となったのが他でもない「クラウドファンディング(公衆基金)」、あるいはその先に来る「クラウドインベスティング(公衆投資)」でした。
※ 「公衆基金」「公衆投資」という言葉は、経済用語に疎いボクがそれぞれの訳語を発見できないまま勝手につけた呼び名であり正式な専門用語ではありません。
アメリカで人気のKickstarterは、アイデアはあるけど資金がない!というクリエイターが、不特定多数の一般人に向けて「自分が作りたいと思っている素晴らしいモノ」と「それを作るために必要な制作資金」について動画でプレゼンし、「あ。それオレも欲しい!」と思ってくれた視聴者から支援金を募る仕組みです。
▶ Kickstarter
つい先月も往年の懐かしい16mmフィルムカメラ・メーカー、スイスBolex社公認のデジタルシネマカメラ、Digital Bolex D-16の製作資金を支援してください!という呼びかけが大きな反響を呼びました。プレゼン公開後ほんの24時間ほどで、数百人の支援者と、決して少額とは言えない「10万ドル」という調達目標金額の倍以上の資金がアッサリと集まってしまったからです。
詳しくは、顛末を報じた拙ブログをご参照ください。
▶ raitank blog : Digital Bolex D-16:16mm 2K RAW デジタルシネマカメラ
▶ raitank blog : Digital Bolex D-16:出資フィーバーに警鐘の声も
ただし、このKickstarterにおけるクラウドファンディングを理解する上で留意しなくてはいけないポイントは、JOBS法案の立法化までは、クラウドファンディングはあくまでも「支援」であり、たとえその製品がその後大ヒットしても、いわゆる “リターン” の類はありませんし、税法上も税制上も明らかに「投資」ではない!という点です。
つまり、法令による後ろ盾がないクラウドファンディングとは、実質、プレゼン動画付き “商品の予約受注販売” に過ぎず、しかも出資者保護の仕組みもありませんから何らかの事情で製品化プロセスが頓挫した際には資金が返ってくる可能性が低く、「ファンディング」とは言うものの、より正確には “寄付に近いなにか” という位置付けに留まってしまうのでした。
■ JOBS法案の中身
参考までに、今回上院を通過した法案の主な骨子は以下の通りです。
● 12ヵ月で100万ドルまで、あるいは投資家に監査報告書を提示できるのであれば、
最大200万ドルまでの資金調達を認める
● ソーシャルメディア、一般広告及びそれに類するメディアを通じて投資を募ることが
できる
● 投資家サイドは最大1万ドルまで、あるいは年間所得の1割(どちらか少ないほう)
までの投資を認める
● 調達目標額を明示し、公衆調達でその60%が集まらなかった場合は事業を取り止め、
資金を受け取ってはならない
● 認定仲介業者は、投資のリスクについて説明し、詐欺行為を防ぐための適切な措置を
最大限に講じること
▶ Vim | FUNDING : Crowd Investing 101
■ クラウドファンディング映画「Iron Sky」
さて、ここでアメリカから今度はEUに目を移します。皆さんは「Iron Sky(アイアンスカイ)」というフィンランド映画をご存知でしょうか?
「Iron Sky」は、Timo Vuorensola監督による “近未来SFブラックコメディ(?)” とでもいうべき怪作で、あらすじ曰く…
という… なんというか、まだ見てないのでアレですが、ヨーロッパ版の「マーズ・アタック」のような作品… でしょうか?(汗)
とりあえず予告編を見る限り、全篇に渡ってかなり凝ったアートとVFXが奢られており、撮影は全篇RED(One+Epic)で、音楽は知る人ぞ知る大御所、Laibach(なつかし〜!)。チラホラと見知った俳優の顔も見えたりして、全体的にかなり「ブロックバスター」っぽいムード満載です。
▶ Iron Skyオフィシャルサイト
その他、内容とシーンの紹介は、Gigazineさんが詳しかったです。
▶ Gigazine : 2018年に月からナチスUFO軍団が地球襲来するSF映画「Iron Sky」予告編+本編冒頭4分
天下のアメリカではようやく「クラウドファンディング」立法化の目処が立ち、今後の「クラウドインベスティング」への道筋が見え始めた段階ですが、かたやの欧州では、今を去ること4年も昔の2008年、この「Iron Sky」が「クラウドファンディング」+「クラウドインベスティング」+「クラウドソーシング」という3つのクラウド手法を駆使した映画製作をすでにスタートさせていたのでした。
以来、4年の歳月をかけ、今までに170本を越える予告篇… というか、進捗状況報告映像を公開し続けながら製作が続けられてきた「Iron Sky」のキャッチフレーズは、ずばり! “Producing with the Audience(観客と共に作る映画)”。
この1月、ついに完成した本作は、まず2月に第62回ベルリン国際映画祭で(え〜!ドイツの人は怒らないのかな?)、続いてアメリカはテキサスで開催されたサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)映画祭でプレミア上映され、本国フィンランド及びドイツでの4月初旬の一般封切りを目前に控えています。
▶ YouTube上の「Iron Sky」オフィシャルページ
パッと見「超大作」に見える割に、実は総制作予算たったの750万ユーロ(約8億2千万円)で作られた「Iron Sky」は、その内、30万ユーロを「クラウドファンディング」で、同じく90万ユーロを「クラウドインベスティング」であがなったそうです。
逆に言えば、クラウド手法によって集められた資金は、制作費のたかだか16%に過ぎず、残り84%(630万ユーロ)は業界資本による従来型の投資だったという内訳ですが、それでもEU14カ国を股にかけ、1,500人におよぶ少額投資家から130万ユーロ(1億3千万円)もの資金を集めて映画を撮った!ということ自体が、まずは前代未聞の偉業と言って良い出来事なのでしょう。
惜しむらくは、これで完成した作品が珠玉の出来! …だったら「伝説」になれたのですが(苦笑)。批評家諸氏のレビューは、お世辞にも芳しいものではなく… というか、ボクは目にしていませんが、正直、“惨憺たるもの” と報じられています。
■ クラウドファンディングによる映画製作は日本でこそ
JOBS法案の上院通過によって、今後アメリカでは主にサンダンス映画祭などで発表されるインディーズ系の映画が、多数の少額投資家によって制作・配給される機会が激増するものと期待されています。これを、実質、ハリウッドと「それ以外」の製作環境の違いが大きく、同時に市民活動が盛んなアメリカなればこその話だよなぁ〜と理解するのも間違いではないでしょう。
ですが、実はこのクラウドファンディングがもたらす変化の本質は、制作者側から見た時には、寄付か投資か?といった制度の違いではなく、実は目上に認められて仕事が降ってきたら幸せになれるのかな?的な世襲業界型小宇宙からの離脱、あるいは自ら企画し自ら募り自ら頑張る “ボトムアップ式映画製作” でも「本篇」が撮れちゃうかも!?という全く新しいパラダイムへの精神的な引っ越しではないでしょうか。
だとしたら日本でだって、これからの映画界を背負って立つ若手映像人の皆さんにとって、かなり有効な這い上がり戦術になり得るのでは?という気がするのですが、さていかがなものでしょう?
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