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[raitank fountain]Vol.06 シネマのネクスト・ウエーブ、”Higher Frame Rate” とは!?
※ 本記事は PRONEWS連載コラム「raitank fountain」に、2012年5月29日「[raitank fountain]Vol.06 シネマのネクスト・ウエーブ、”Higher Frame Rate” とは!?」として掲載された原稿を再録したものです。
現在活躍中の映画監督の中で、もっとも商業的に成功しているのは誰?と問えば、きっとジェームズ・キャメロン監督とピーター・ジャクソン監督が2トップに名を連ねるのではないでしょうか。この世界に名だたる有名なお二人が、現在揃って熱を上げているのが、今まで100年に渡って “映画における神聖不可侵領域” だったはずの「24fps」を上回るコマ数で撮影/上映するHFR(ハイヤー・フレームレート)映像。
本年末に公開予定の「ホビット」は、ピーター・ジャクソン監督を名匠たらしめた、お馴染み「ロード・オブ・ザ・リング」三部作の序章にあたる物語。そして、この映画は、なんと前代未聞の!2D@24fps、2D@48fps、3D@48fpsという3つの方式で公開されることが予定されているのだとか。
今回は、映画界の次なるビッグウエーブ!(かも?)と囁かれている、このHFRについて書いてみます。
■ そもそも映画はなぜ24fpsなのか?
僕らが日々目にしている劇映画は、幾つかの例外的なケースを除いて、ほぼ必ず1秒間に24コマ(24fps)で撮影/上映されています。でも、どうして映画フィルムは秒速24コマなのでしょうか?
もうかれこれ四半世紀以上も昔の話になりますが、留学先のアメリカの大学で映画技術を学んでいた際、授業中に教わった話で一番驚いたのが、この『映画が24fpsで撮影/上映されている理由(ワケ)』でした。実はこのコマ数の根拠は、映像自体とは全く関係がないことを皆さんはご存知でしょうか?
「映写式映画(キネマトグラフ・リュミエール)」を発明したフランスのリュミエール兄弟は、1秒間に明滅表示されるフィルムのコマ数を16コマに定めました。これは実験の結果、『品質:これ以上遅くすると画面の明滅がバレてしまう!』&『経済性:これ以上早くするとフィルムがもったいない!』のバランスから決まったコマ数でした。
▶ Wikipedia|トーキー
▶ Wikipedia|リュミエール兄弟
モノクロ&無音&秒速16コマの、いわゆる “無声映画” がパリで有料公開されたのが1895年。以降、弁士と楽隊付きで映画を楽しむ時代が約30年続いたあと、1923年に “光学式音声トラック” が発明されます。光学式音声トラックとは、映画フィルムの余白部分に焼き付けられた音声トラックに光を照射し、読み取った光量の変化を音声に変換して再生する技術です。
さぁ!これでもう弁士と楽隊は不要の大革命! …の筈でしたが、一つ問題が生じました。
1秒間に16コマという低速なスピードでは音声品質を維持できず、特に高音域の音をまともに再生できなかったのです。
これではいかんっ!と、またしても品質と経済性を両天秤にかけたギリギリの実験が行われ、そこで決まったフレームレートこそ、ほぼ100年後の現代に至るも未だキッチリと守られている1秒24コマという映画のコマ数なのでした。
そうなんです。24fpsの根拠は、映像として表現される動きの滑らかさであるとか、あるいは人間の視覚心理学であるとか、はたまた森羅万象を司る時間の数学的表現=12進数であるとか… とは、な〜んにも関係がなく、『トーキー初期の音声トラックが要求する最下限スピード』だったのでした。
■ ダグラス・トランブル卿の早すぎた企み
さて。そんな審美的観点からはほど遠い実用一辺倒な根拠によって定められた24fpsなら、別に錦の御旗の如く忠義立てする必要もなかんべ? …ということで、続いて “映画のコマ数を変えてみようとした男” として登場したのが、我らがダグラス・トランブル卿であります。
▶ IMDb|Douglas Trumbull
ひょっとしてダグラス・トランブルという名前に馴染みがない方でも、「2001年 宇宙の旅」「未知との遭遇」「スタートレック」「ブレードランナー」など、関わった映画がことごとく “SF映画の古典” になるという伝説を持つ、アカデミー賞・科学技術賞受賞の世紀の特撮監督、SFXスーパーバイザーといえば、「おぉっ…!」と、数ある名場面が脳裏に蘇るのではないでしょうか。
トランブル氏は、1981年にリドレー・スコット監督に乞われて、「ブレードランナー」の忘れられない未来都市風景を創造したのち、今ではすっかりカルト映画と化している1983年の監督作「ブレインストーム」において、70mmフィルム@60fpsで撮影/上映する『ショースキャン(Showscan)』という革命的な映像技術を提唱しました。
ショースキャンは、通常の映画フィルムとの面積比約4倍の70mmフィルムを用いることにより「空間解像度」を向上させ、また通常24fpsのコマ数x2.5倍速=60fpsで収録/上映することで「時間軸の動体解像度」をも高めるという、まさに究極の超解像映画です。
▶ Wikipedia|Showscan
ところが残念ながら、このショースキャンの試みは全く定着しませんでした。
冒頭に書いたリュミエール兄弟がフレームレートを16fpsに定めた理由、その後のトーキーでフレームレートが24fpsに変更された理由を思い起こして頂ければ自明ですが、映画産業は常に「品質」と「経済」のバランスを要求します。
「ブレインストーム」では、ストーリーの現実の描写を24fpsで、他人の記憶と刺激を共有するヘッドギア(=ブレインストーム)装着後のバーチャル世界の描写を60fpsで表現する計画でしたが、まずは大判70mmのフィルムを60fpsで回すことにより、フィルムの使用量(=製作コスト)が激増。また、撮影時はまだしも上映時にフレームレートの違うパートを切り替え上映することの困難さが嫌忌され、あるいはそもそも70mm/60fpsのフィルムを上映するためには専用プロジェクターの導入と設置が必須になるなど、ショースキャンでは「経済性」に関する視点が見事に欠落していたのです。
■ HFRの経済性を確保する鍵は、またしても『デジタル』
さて、ショースキャンが敗退し、ダグラス・トランブル卿がハリウッドを追われてから約30年後にあたる昨年、2011年の3月末。ラスベガスで開催された第75回シネマ・コンの会場で、ジェームズ・キャメロン監督が、突如、HFRについて語り出しました。
▶ The Hollywood Reporter|James Cameron Urges Industry to Use Faster Frame Rates
▶ WIRED|James Cameron Wants to Blow Your Mind With 60 Frames Per Second
曰く、映画… 特に3D映画においては旧来の24fpsでは全くフレームレートが足りていない。もともと「アバター」は48fpsで撮ろうと考えていたが、時期尚早かな?と思い直して24fpsで撮った。だが続編は、48もしくは60fpsで撮ることになるだろう。HFRに思いを馳せているのは、ボクだけじゃない。G・ルーカスやP・ジャクソンもボクと意見を共にする同志だ、と。
“When you author and project a movie at 48 or 60, it becomes a different movie. The 3D shows you a window into reality; the higher frame rate takes the glass out of the window. In fact, it is just reality. It is really stunning.”
「48または60fpsで撮った映画は、まったく別世界だよ。3Dが現実を覗き込む窓だとしたら、HFRはその窓からガラスを取っ払った状態。いわば、現実そのもの。まったく凄い」
“Doug had the right idea. It was just premature brilliance.”
「ダグラス・トランブルは正しいビジョンを持っていた。少々早すぎたけどね」
そして、キャメロン監督が “今”「アバター」で3Dを復権させたり、あるいはHFRを提唱し始めた背景には、30年前、トランブル卿が「ブレインストーム」を製作した当時は “度外視するしかなかった” 経済性の問題も、今や『デジタル』で乗り越えられる!という目算がありそうです。
“映写機” の代わりに “プロジェクター” を使うデジタル映写方式の3D映画では、左右の目に専用の映像を送り出します。ただし、ただ単純に左右の目用の映像を交互に表示すると、24fpsという時間解像度が半分(12fps)に落ちてしまいますので、これを補間しなくてはなりません。また、3D視聴用のパララックス・メガネをかけることで光量が落ちて暗くなりますから、こちらも補正する必要があります。
そこで、たとえばプロジェクター業界大手、Christie Digital社製の最新式デジタル・シネマ・プロジェクターでは、『トリプル・フラッシング(Triple Flashing)』という仕組みの採用により、1フレームを3回ずつ表示しているのだそうです。ということはつまり、24fpsx各コマを3回ずつ映写x2左右の目=実質144fpsで視聴している!ということになります(うへぇ〜!)。
このあたり、昨今流行りの「W倍速!」やら「4倍速!」やら、ハード補間による残像低減機能付きTVと相通ずるところがありますが、いずれにせよTV受像器は、すでにかつてのショースキャン@60fpsを軽〜く凌駕しています。そして、同じトリックが映画館で可能になるのも、今や上映方式がフィルム+映写機ではなく、データ+デジタル・プロジェクターに移行したればこそ!
▶ High-Def Digest|James Cameron to Shoot ‘Avatar’ Sequels at 48 fps. How Will We Watch Them?
実際、シネマ・コンで上記 Christie Digital社が、フレームレートの変更は簡単なファームウェア・アップデートで対応可能であると正式に表明しています。
▶ CHRISTIE|3D HFR / Higher frame rates in 3D digital cinema
撮影機材から編集環境、そして上映時の映写方式に至るまで、オール・デジタルによる産業構造の変革はまだまだ止まりそうもありませんね。
■ シネモーション vs フルモーション
さて。Higher Frame Rate時代の到来を高らかに宣言したのはJ・キャメロン監督でしたが、実製作の部分では、P・ジャクソン監督のほうが先鞭を付けることになりました。冒頭に書いた通り、2D@24fps、2D@48fps、3D@48fpsの三通りで上映することが決まっている、全篇REDで撮影された「ホビット」は、今年12月初旬の公開予定に照準を合わせ、すでにポスプロの最終段階に差しかかっています。
というところで、映画創造から現在までのフレームレートの変遷を簡単に整理してみましょう。
1895年・・・16fps(リュミエール兄弟)
1923年・・・24fps(トーキーの要請)
1983年・・・60fps(D・トランブル卿 >失敗!)
2010年・・・48/60fps@3D(J・キャメロン監督 >提唱)
2011年・・・48fps@3D(P・ジャクソン監督 >製作)←今ココ
海の向こうでは、24fpsを「シネモーション」、48fpsを「フルモーション」と呼んではどうか?という提案がなされるなど、じわじわとHFR作品に対する関心が高まっています。
▶ dvxuser|48FPS Footage & High Frame Rate Cinema Info
…が、実はつい先日の4月末、今年のシネマ・コンでジャクソン監督が「ホビット」の3D映像を10分ほどプレビュー公開したところ、あろうことか?批評家、ファン、一般オーディエンスのすべてから、盛大にダメ出しを喰らってしまいました。おおかたのNG理由は
「TVドラマ(soap opera)みたいだ!」
というもの。また、「超絶にリアル。ただ、リアル過ぎて作り物にしか見えない」という、HFRの根底を揺るがすようなコメントも…。いずれにせよ惨憺たるプレビューになってしまいました。
▶ Forbes|The Hobbit at 48fps: Too Much Information and the Science of Eye Movement
▶ The Hollywood Reporter|Peter Jackson Responds to ‘Hobbit’ Footage Critics, Explains 48-Frames Strategy
▶ BBC News|Peter Jackson unsurprised by critics of Hobbit footage
対するジャクソン監督の言い分としては…
今までと違う作り方をしているから、今までとは違う反応が返ってくるのは想定内。今回お見せした映像は、まだポスプロが完了したものではなかったので、よけい違和感を感じたかも知れない。でもいったん物語の世界に没入すれば、やがてリアルな、その場にいるかのような感覚に圧倒されるだろう。ボクも馴れるまでは少しヘンな感じがしたけど、今や逆に従来の24fps映像を見ると残像やフリッカーが気になって仕方がない。いずれにせよたった10分視聴した段階で判断しないで!と火消しに務めています。
あ、そうそう。今年のシネマ・コンでは、上記「ホビット」@48fpsがブーイングを浴びたという話題の陰で、長らくハリウッドから遠ざかっていたダグラス・トランブル卿が、あの「ブレインストーム」以来となる長篇3D映画でメガホンをとることが決まったというニュースも(地味に)流れてきています。
▶ 映画.com|「2001年宇宙の旅」SFXマン、3D映画監督へ
僕らが馴れ親しんだ「24fps」というコマ数は、実は視覚表現上の都合ではなく、音声品質を保てる最低限度のコマ数というだけのこと。そんな薄味な根拠に立脚した映画の24fpsフレームレート!
…ではあるものの、それでも今まで100年ものあいだ連綿と「かくあるべし」と刷り込まれ続けてきた、いわば人類文化のクオリアです。この呪縛を解くのは容易ではないんだろうなぁ、と思います。
映画産業が求める経済性の壁をデジタルで打ち破り、「ショースキャン」の夢をあっさりと現実化してしまったP・ジャクソン監督、並びにJ・キャメロン監督。「ホビット」は48fpsで製作され、かたやの「アバター2」はあるいは60fpsか?というのが、目下ホットなHigher Frame Rateシネマのハイライトではありますが、さて、元祖HFR教の開祖であるD・トランブル卿は、一体、どんなフォーマットで次作をお撮りになるつもりなのでしょうか?
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