[raitank fountain]Vol.02 次に”来る”のはアナモルフィックレンズ!?

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※ 本記事は PRONEWS連載コラム「raitank fountain」に、2011年12月29日「[raitank fountain]Vol.02 次に”来る”のはアナモルフィックレンズ!?」として掲載された原稿を再録したものです。

世間がまだ Canonと REDのハリウッドイベントの話題で持ちきりだった先月、11月14日、独・ Zeiss社が今後の製品ロードマップを発表しました。曰く、①世界中で大人気の Compact Prime CP.2を拡充する。また、②小型・軽量の “従来にはない” シネズーム群をリリースする。さらに…! ③アナモルフィック・レンズを完全復活させる、と。

やれやれ、これはまた凄いことになってきたぞぉ…。っていうか Zeissって本当に機を見るに敏なおっそろしいメーカーだよなぁ〜と改めて実感。というわけで今回はレンズ界のドン Zeiss社の戦略と、アナモルフィック・レンズってなによ?美味いの?な話をお届けしようと思います。

■ Zeiss、2012年の布陣

もうすぐそこに迫っている 2012年、Zeiss社から新しいレンズ群が登場することが明らかになりました。泣く子も黙る Jon Fauer氏(そういえば、氏は Canonハリウッドイベントの司会も務めてましたね)責任編集の Film and Digital Times誌が報じるところによれば、それはまず既存の Compact Prime CP.2ラインを補完する 18mm及び 100mm単焦点レンズの登場。すでに出荷済みの製品と合わせ、これで8焦点距離9製品となり、Zeissの一眼用レンズと同じ光学系を採用した(=フルフレーム・センサーをカバーする)Compact Prime CP.2が更に充実することになります。



ただ、これは特に目新しい話題ではなく、言ってみれば既定路線。そのうち出るだろうことは誰でも知っていた話です。

では、真打ちは?と言えば、これが二つあって、まずは Compact Tele Zoomと呼ばれる新しいズームレンズ群の登場。現状、70-200mmが出ることが確実視されているものの、その他の焦点領域は不明。ただし、この Compact Tele Zoom がエポックメーキングな点は、なんといっても従来のシネレンズ標準スーパー35mm画角ではなく、CP.2と同様 35mmフルサイズ画角をカバーすること!(ひょえ〜!)



つまり、EFマウントや Fマウント、あるいはEマウントやマイクロフォーサーズ・マウントまで選べる CP.2のフルセットに、これら Compact Tele Zoom群を加えてセットを作れば、一眼レフからシネマカメラまで、全てのセンサーサイズに対応しちゃうけん!っちゅーことですね。コレなにげに、他のどこも真似できないスゴイことではないですかっ?

ところが、驚きはまだ続きます。なんと上記ズーム群に加え、Anamorphic Primeという正統派 “アナモルフィック・レンズ” の「フルセット」を出すのだそうです! Zeiss社曰く、 “We’re Back in the Anamorphic Lens Business” と。
EOSHD : Zeiss – “We’re Back in the Anamorphic Lens Business” and new Compact Zooms “for HDSLRs”
Cinescopophilia : ZEISS Releasing Compact Lightweight Set of Anamorphic Prime Lenses



■ アナモルフィック・レンズってなに?

さて、ココでご存知ない方のためのプチ解説。

アナモルフィック・レンズ(Anamorphic Lens)は、映画の世界で「スコープ画角」 …いわゆる「シネスコ(© 20世紀FOX社)」の映画を撮影、及び上映するために使われる特殊なレンズ。このレンズを装着すると、画面を横方向に圧縮して撮影することができます。



Q:はあ?なぜ圧縮するの?しかも横方向にだけ?

一般的な「スタンダード画角(1.33:1)」用の 35mmフィルムで、2.35:1 のスコープ画角の絵を撮影すると、図のようにコマの上下に非撮影領域の黒みが入ってしまいます。これでは使われなかったフィルム部分がもったいないし、相対的に画質(解像度)も落ちてしまいます。そこで「左右方向を圧縮する」アナモルフィックレンズを使って横方向を縮め、フィルム全面に縦長の絵として撮影します。そして上映時には、撮影時と逆に「左右方向を伸張するアナモルフィック・レンズ」を映写機につけて、オリジナル画角に復元するのです。


CC3.0 by Wapcaplet

Q:なぜそんな面倒なことを? ワイド画角専用のシステムを作れば良かったのでは?

と思われる方もいるでしょうが、これは 1950年代、すでに「映画のサプライチェーン」が確立されていたアメリカにおいて、撮影カメラ、使用するフィルム、そして何よりも全米中の映画館に設置された映写機について、なるべく既存のインフラをそのまま使う形で… つまり「お金をかけずに」新たに生まれた横長スコープ画角の映画を撮影・上映するために導入されたシステムなのでした。

そんな、「映画らしいワイドな画角」の実現と「経済性」を天秤にかけて生まれたアナモルフィック方式でしたが、それから数十年かかってビスタサイズが一般的になるまで「映画といえばシネスコ」な時代が続いたため、ある程度以上の年齢の方が無意識のうちに抱いている「映画らしさ」と「アナモルフィック表現」には切っても切れないものがあります。

最近のシネスコ映画で有名な作品は?と言えば、「チャイナタウン(1974)」、「地獄の黙示録(1979)」、「エイリアン(1979)」、「ブレードランナー(1982)」あたりでしょうか(これが “最近” ?という突っ込みはなしで(笑))。



画面が幅の方向だけ圧縮・伸張されるアナモルフィック方式では、必然的に横方向と縦方向で焦点距離が微妙に変わってしまいます。それにより、あのなんとも言えないアナログっぽい歪み感のある画調が生まれます。また、独特な歪曲収差により生じる楕円形のボケ、非常に特徴的なフレアや滲み。そうした “本来的に言ったら画質を落とす様々な特徴” こそが、しかし映画体験・映画らしさの原点だ!と言い切る人さえいます。

実際、現在一般的なビスタサイズ(米1.85:1/欧1.66:1)は、純粋に「映画のため!」というよりも、TV放映時の利便性を考慮した結果生まれた画角だそうですし、昨今の 16:9 (1.78:1)画角は、その米・欧で微妙に違うビスタの中間ということで、やはり TVスクリーンに適応した規格です。



■ アナモルフィックの復権と一眼ムービー

さて。そんな懐古趣味の権化のようなアナモルフィック・レンズが、実はここ数年、一部で再び脚光を浴びていました。その理由が、実は “一眼ムービーの台頭” だったのです。

それまでレンズ固定式の “Cineライクガンマ機能付きビデオカメラ” 等で制作を行っていたインディーズ系フィルムメーカー達が、三年前の一眼ムービー革命以降、こぞって EOS、GH2、NEX等々のレンズ交換式カメラに軸足を移してきています。そして、レンズを交換できるようになった彼らは、気が付いてしまったのです。映像の「テイスト」を司るのは日進月歩の技術の塊(ということは、すなわちすぐに古びることが必定)の「カメラ本体」ではなく、実は「レンズ」のほうである!という事実に。
カメラ本体なんて、どうせ数年で買い換えることになる。投資するなら一生使える “ちゃんとした” レンズにこそ投資すべきだ! …というワケです。



覚醒した彼らは、eBayでレンズ漁りを始めます。そして、今では使われなくなっていた大昔のドイツ製やフランス製の 16mmシネカメラ用レンズなどに手を染め始めましたが、中に、それこそ過去の遺物として捨て値で取引されていたアナモルフィック・レンズに手を出すクリエイターたちが現れ、歪曲収差やおかしなフレア、楕円ボケなど、現代の成績優秀なレンズでは得られない「味」を積極的に表現に利用し始めたのでした。

たとえば前回の話題である GH2ハックに力を入れている一眼ムービーサイトの老舗、EOSHDの Andrew Reidさんは、以前からアナモルフィック表現にかなり深いこだわりを持っていて、さまざまなサンプル映像を発表するかたわら、アナモルフィック・レンズ導入の手引き書、「Anamorphic Shooter’s Guide」を発行するなど、ブームの牽引役を務めています。
EOSHD : Anamorphic Shooter’s Guide


また日本では、ファッション、ミュージックビデオ等で活躍中の渡辺伸次さんが、友人の結婚式で流すお祝いビデオをアナモルフィック撮影で映画仕立てで作ってしまうなど、大のアナモルフィック・レンズ好き(笑)。現在は、新しい愛機、FS-100にアナモルフィック・レンズ+オールド Nikonという組み合わせで、日夜テストを続けているそうです。
Black Eyes Photography


■ Zeissの Anamorphic Primeのターゲット
さて。解説し始めたら止まらなくなってしまいましたが、そんな、ここ最近一部で超熱かったアナモルフィックの世界に、天下の Zeiss様が乗り出して来る!というのです。これがエラいことでなくて、なにがエラいことでしょうかっ!?

…と思ったのですが。んん? あれっ?

来年登場するという Anamorphic Primeの仕様をよくよく確認したところ、新たな疑問が。曰く、Anamorphic Primeは「x2 アナモルフィック」、つまり「横方向2倍圧縮」だと言うのです。

は? それって、どういうカメラに装着して撮影するための倍率っすか?( ゚д゚)

現在、市場に出回っているカメラに内蔵されているセンサーの画角は、FS-100から F3、C300、Scarlet、Epicまで含め、もれなく 16:9 ですよねぇ? これらのセンサーでx2アナモルフィック・レンズで撮影などしてしまった日には…? シネスコ画角 2.35:1 を遙かに超え、はたまた 70mmシネラマの超ワイド画角 2.88:1 だって軽く跳び越えて、3.55:1 などという “あり得ない画角の映像” になってしまうではありませんか!?



そうなんです。どうやらこのレンズは 16:9 ではなく 4:3 センサーのカメラ専用っぽい!( 4:3+[x2 アナモルフィック]= 8:3 = 2.66:1=若干横長だけど「スコープサイズ」の範疇)。

…でも、いまどき 4:3 画角のセンサーを搭載したカメラって?

■ Zeiss Anamorphic Primeは、超ハイエンド・デジタルシネマカメラ専用

あんまり遠い世界の話過ぎて忘れていましたが(笑)、「4:3 画角のセンサーを搭載したシネマカメラ」といえば、まずはなんといっても2008年に登場した Arri D21。そして、今年のアムステルダム IBCでお披露目され、その後、10月8日にハリウッド・デビューも果たした、Arri Alexa Studio。どちらも超ハイエンド・デジタル・シネマカメラであり、回転ミラーシャッター、光学ファインダー、それに 4:3 画角の35mmフルサイズ・センサーを備えています。



なるほど、なるほど、ようやく納得。Zeissの Anamorphic Primeは、C300や REDなどをまとめて飛び越えたさらにその先、本当に本物の超ハイエンド・デジタル・シネマカメラ専用というわけです。そう考えれば、従来からあったフィルムカメラ用の Panavision、Arri、Hawkなどのx2 アナモルフィックと何ら変わりがない、 “ごく普通のシネマレンズ” という気がしてきましたよ(ベラボーに高額ですけどね(笑))。

それにしても、冒頭でご紹介した通り「ゆりかごから墓場まで」方式(?)で、PLマウントからマイクロフォーサーズまで、同じレンズのマウント違いバージョンをまめに用意して、効率よく最大限の利益を上げ続けている Zeiss様が、たった数機種のカメラのためだけにアナモルフィック・レンズのフルセットを復活させるだなんて、一体どういう風の吹き回しでしょう? 背後に一体どんな深遠なマーケティング戦略が!?

…などと勘ぐりたくもなりますが、んー実はそんなに大それた事ではないのかも?

つい先日、12月14日付けで 2010/2011年度の年次報告を発表した Carl Zeissグループは、現在、世界中に約24,000人の従業員を擁し、42.4億ユーロ(約4,300億円)に及ぶ売り上げを達成したそうです。
Carl Zeiss: Revenue Tops Four Billion Euro Mark for Very First Time

ところが、この莫大な売り上げの内、僕らがお世話になっているコンシューマーレンズ事業が占める割合は、実は たったの 7.5%(約3.2億ユーロ)。ここには双眼鏡やプラネタリウム用レンズを含むその他の事業も含まれていますから、我らがシネマレンズ/一眼レンズだけで見たら、実質は日本の消費税相当分(5%)くらいなのかな?と。(^_^;)

だとしたら、Zeiss様的にはアナモルフィック・レンズを出すか出さないか?な〜んて、“ちょっとした道楽” 程度以上に深い意味はない、と判断した方が妥当かも知れません… よね?(笑)

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