[raitank fountain extra]Shoot.04 動画カメラとして見る Nikon D4,D800:Vol.2

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※ 本記事は PRONEWS連載コラム「raitank fountain」に、2012年8月14日「[raitank fountain extra]Shoot.03 動画カメラとして見る Nikon D4,D800:Vol.2」として掲載された原稿を再録したものです。

というわけで、Vol.1ではD4、D800の開発に関わられたニコン社員の皆さんから伺った貴重なお話をご紹介しました。ボクはこの座談会の前後にD4とD800をお借り出しさせて頂き、デジタル一眼史上初の快挙である「3つのクロップモード」や「クリーン4:2:2出力」に感激しておりましたが、Vol.2では実践編として、D4、D800でそれぞれ行ったテスト撮影の結果を、拙い作例を交えてご紹介させて頂ければと思います。

■ D4 対 5D2、GH2



ボクが普段仕事で使っている5D2、GH2は、どちらも “吊しの状態” からはほど遠い改造マシンです。5D2にはSamuel Hurtado氏作の「flaat」というピクチャースタイルをインストールしており、また、Mosaic Engineering社製の外付けローパス・フィルター「VAF-5D2」を内蔵してモアレを防いでいます。
Mosaic Engineering : VAF-5D2 Optical Anti-Aliasing Filter
Similaar : Flaat Picture Style for Canon DSLRs
※ ニコン一眼用の「flaatピクチャーコントロール」もリリースされています。ダイナミックレンジ10ストップを実現する「10」がEOSの「CineStyle」と同等、11ストップの「11」が開発者であるSamuel Hurtado氏のお勧めとなっています。特にD800には「11p」が最適だそうです。
Similaar : Flaat Picture Control for Nikon DSLRs


いっぽう、GH2はbkmcwd氏作の3GOPパッチ「GOP3ZILLA_V2.0」でハックし、軽く100Mbpsを越えるビットレートで信号を記録しています。
PERSONAL VIEW : GH2 Settings Vault, most popular settings in one place

対するD4は、せいぜいピクチャーコントロールで素材性重視の「ニュートラル」を選び、調整パラメーターを以下に設定しただけの、ほぼ標準設定です。

    輪郭強調 > 1
  コントラスト >-2
     明るさ > 0
色の濃さ(彩度) >-1
 色合い(色相) > 0


…と、三つ巴の試し撮りの体裁をとってはいますが、使用したレンズからセンサーサイズまで違いますので、せいぜい “傾向を計る目安” 程度の意味しかありませんことを言明しておきます。また、基本、データはカメラ出しのままですが、GH2のデータのみ編集時に色被りを緩和しています。
使用レンズ:
D4  AF-S Nikkor 24-70mm f/2.8G ED
5D2 EF24-70mm f/2.8L USM
GH2 Nokton 25mm f/0.95




ココでちょっとしたワンポイントですが、D4に限らず、ニコンのカメラでは「輪郭強調」を最下限値である「0」に設定すると、輪郭強調効果を “完全に切る” ことができます(キヤノンEOSでは、最下限値でも「最弱」で輪郭強調がかかっていて、これを切ることはできません)。従来、一眼動画では、「ラインスキップ」によるダウンサンプリングと「H.264コーデック」による圧縮でアラが出ないよう、「輪郭強調はオフ」が定石とされてきました。ですが、設計時の方針として動画の解像感を追求していないD4(Vol.1を参照)では、敢えて「輪郭強調」をもう少し上げて、メリハリを出しても良かったのかも知れません。…と、いまさらちょっと後悔。


■ D4、3つのクロップモード

D4にはFX(フルフレーム・センサー範囲)、DX(APS-Cセンサー範囲)、そしてフルHD(1920x1080範囲)という3つのクロップモードが用意されています。近来これほど画期的な撮影機能が他にあったでしょうか?



もちろん、クロップ撮影モード自体に関して云えば、たとえばGH2にはもう二年も前から「Exテレコン」という、センサー中央部切り抜き撮影モードが搭載されていました。ですが、D4はフルサイズ・センサー機ならばこそ、フルHD切り抜き(x2.7倍)の上にさらにAPS-Cサイズ(x1.5倍)のクロップモードを追加できました(このモードでさえマイクロフォーサーズ・センサーよりも撮像範囲が広い!)。これにより、たとえば標準的な24-70mm f/2.8のズームが、広角24mmから望遠190mmまでのニッパチズームに変身してしまうというのですから、まさに快挙です!

…Vol.1で触れられているように、D4の “味付け” が解像感重視ではなかったために、FX、DXモードでのイメージが今ひとつキリッとしないのが本当に惜しいです。



それから。ココで、あえて苦言を二つ。

苦言その1:どうして同じフルフレーム・センサー機であるD800にはFXとDXの二つのクロップモードしか用意して下さらなかったのでしょうか?(もしもこれがラインナップ・ヒエラルキーのためだったとしたら、「あぁニコンよ、お前もか…」とガックリ肩を落とすほかありません)

苦言その2:FXとDXは「撮影メニュー ➡ 撮像範囲」で切り替え、FX、DXからフルHDクロップへは「動画の設定 ➡ 画像サイズ/フレームレート」で切り替えというのが解りづらく、また面倒です。クロップ撮影の切り替えはメニューではなく専用のボタンやノブで切り替えても良いくらい画期的な機能ですから、せめてファンクションボタン1つに集約して使い分けできるようにはならないでしょうか?



■ D800のクリーン4:2:2出力と高感度特性(v.s. 5D3)

このテストでは友人の岩永 洋さんにご協力いただき、17インチMacBookとBlackmagic DesignのUltraStudio3Dを持ってきて頂きました。ありがとうございます!
studio sizka(岩永 洋)
Blackmagic Design : UltraStudio 3D

さて、せっかく岩永さんに重い機材を持って出てきて頂いたものの、結論から先に申しますと、UltraStudio 3DではD800のクリーン4:2:2信号を “23.98fpsで” 収録することはできませんでした。Vol.1でニコンの吉松さんが仰っていたEDID(映像機器の固体識別信号)の問題です。きっと、UltraStudio 3D側に登録されているEDID情報が正しくないために、D800とはハンドシェイクできないのでしょう。

では結局この日はUltraStudio 3D+D800の組み合わせで4:2:2信号を収録できなかったのか?というと、同じくVol.1でニコンの皆さんに伺った “次善の策” を講じたところ、1080i@29.97fpsでなら収録できることがわかりました。…機器の都合でフレームレートを変更するなんて、どう考えても納得がいきませんし、実際の業務ではそんな本末転倒な選択肢はあり得ませんが、そういう意味で外部レコーダーで4:2:2収録を前提とするならば、事前の相性テストを入念に行う必要があるということですね。



さて、この時の撮影では4:2:2信号の収録と共に高ISO時の具合も検分したのですが、3600万画素という尋常ならざる画素密度を誇るD800は、暗さには全く弱いことがわかりました(容易に想像できることですが)。常用できそうなのは、せいぜいISO3200まで。ポストでノイズ・リダクションをかけて使うにしてもISO6400はちょっとキビシイかも?という感じです。

後半、ご参考までにD800がリタイアしたあとの暗さの中、高感度特性が大幅に改善されて話題になった5D3で撮影したテスト映像が続きます。こちらは、ざっとISO16000までは普通に使えてしまいそうな勢いで、いやこれはホントに凄いですね。改めて驚いてしまいました。



■ 動画カメラとして見る Nikon D4,D800:まとめ

今年初頭、なんの事前情報も噂も聞こえぬまま、青天の霹靂、驚天動地の動画機能を満載して登場したD4、D800。HDSLR進化の規定路線として満を持して搭載された「ヘッドフォン端子」や「オーディオ・レベルメーター」の他に、あっ!と驚く「クロップ撮影モード」や「クリーン4:2:2出力」まで搭載して登場した2台のフルフレーム・センサー機。



今回、両機を試させて頂き、『D4の動画がもっと解像感重視の方向にチューニングされていたら』、あるいは『D800動画の高感度特性が現状の倍くらい優れていたら』、どちらも他の追随を許さない、新しい一眼動画カメラの標準になっていただろうに!と思いました。

ご存知のように、ニコンは歴史的にフォーカスリングの回転方向がハリウッド式(=キヤノン式)とは反対です。また、ニコンのFマウントレンズはマウントアダプタ−を介してEOSカメラに装着できますが、フランジバック長の関係から、その逆(キヤノンEFマウントレンズをニコンカメラに取り付けること)は不可能です。この二つの事実から、ニコンがいくら頑張ってもすでに莫大なレンズ資産と共に歴史を刻んできた映像業界をひっくり返すような事態は起こらない、と断じる人々がいます。

本当にそうでしょうか?

昨秋以来の興味深い業界の動きとして、キヤノンのハリウッド進出があります。いわゆるビッグ・バジェットを狙い、映像産業のメッカに拠点を築かれたわけです。すごいですね。ただ一方、Cinema EOSブランドの発進と共に、今まで以上に製品ラインナップのヒエラルキーに縛られるようになった民生ラインの製品には、明らかに機能制限が設けられました。その結果、今までたぶんライバル視してはいなかったであろうニコンから登場したD4、D800に多くの機能面で負けてしまいました。…昨年お隠れになったApple総帥の言ではありませんが、「自社製品と食い合いする製品を恐れても、他社に喰われるだけ」なのです。



パソコンの進化、デジタル化の浸透と拡散のもと、産業の在り方が根底から変化し続けています。そしてそれは必ずプロとアマの境界の曖昧化といった形で進行していきます。「映像作品を作ること」が、ずっと “その道のプロ” にだけ許された仕事として存続するのなら、ひょっとすると上の言葉は永遠に揺るがない真理として成立し続けることができるかも知れません。ですが実際は…
たとえば映像業界の一歩手前にある、写真業界を見てください。すでにかなり以前から、職業写真家(プロカメラマン)という業種自体が絶滅危惧種化してはいないでしょうか?

ボクの本業であるグラフィック・デザイン/印刷業界では、パソコンによってもたらされたDTPという概念のもと、もうかれこれ15年ほど前に「写植屋」と「製版屋」という二つの業種が完全に消滅しました。それまで何百年も続いてきた仕事が、ある朝起きたら消えてなくなる時代を、僕らは生きています。10年後になにが起こっているかわかりませんし、なにが起こっていても不思議はないのです。ましてやフォーカスリングの回転方向なんて、間に反転ギアを一つかませば…(笑)。

今回、ニコンの皆さんと直接お話をさせて頂き、「ニコンはまず写真の会社です」という理念を尊敬の念とともに理解しました。競合他社とは違い、もうかれこれ50年以上の長きに渡ってニコンFマウントの互換性を維持しておられる姿勢にも敬意を表します。ですが今後は、ぜひその理念をほんの少しだけ拡張し、「ニコンはまず写真の会社ですが、映像の会社にだってなれちゃうかも!」と高らかに宣言され、自社内に映像機器部門がない身軽さを武器に(笑)、社内調整や製品ヒエラルキーの制限を受けない映像制作ツールを、どんどんバリバリ作り続けて頂きたいなと思いました。

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最後に。「ホントは人物撮りもテストしたいのよね」と某所でつぶやいたところ、あらまぁ!美しいモデルのご友人が何百人もいらっしゃるらしいフォトグラファーの渡辺伸次さんが、サラッとスタジオとモデルさんとヘアメイクさんをお膳立てしてくださいました(持つべきものは顔の広いお友だち!)。当日、なにも考えずにカメラだけ持参してスタジオ入りしたところ、おっぱいの大きなモデルのヨーコさんが「アタシ、脱いでも凄いんです」などとのたまわるもので、つい調子に乗って…。

いろいろとアレがナニした赤面ものの出来ですが、D4、D800混在の拙い作例ということで、ひとつご容赦をば。


<本稿執筆にご協力いただいた皆様>
Still : Manabu Wada
Equipments : Hiroshi Iwanaga
Model : Camellia Yoko
Coordination : Shinji Watanabe
Hair&Make : Miho Araki

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