泣く子も黙る Panavision様から、なんだか凄いカメラが登場しました。その名も「Millennium DXL 8K」。しかして、その実態は?というと、Panavision化された RED Weaponカメラに Light Ironのカラーサイエンスが盛り込まれたモンスターカメラ。
▶︎ Panavision : DXL
ま、なにはともあれ、ザッとスペックを見てみましょう。
センサータイプ | 16-bit 3,550万画素 CMOS |
センサーサイズ | ラージフォーマット(40.96mm x 21.60mm|対角46.31mm) |
解像度 | 8192 x 4320 pixels |
最大 ISO | 12,000(ベース感度 800 ASA) |
Dレンジ | 15ストップ |
最大 fps | 60fps@8Kフルフレーム、75fps@8K 2.4:1(8192 x 3456) |
収録コーデック | 8K RAW +4Kプロキシ(ProRes、DNx) |
メディア | SSD(1マガジンで最大1の収録時間) |
ファイルタイプ | .r3d |
カラープロファイル | Light Ironカラー |
重量 | 4.5kg |
その他 | 6つの独立した映像出力 |
6つの独立した 1D LUT、または4つの独立した 3D LUTを適用可能 | |
モーター内蔵 Primo70レンズをワイヤレスコントロール | |
ワイヤレス・タイムコード出力機能内蔵 | |
オペレーター用、アシスタント用、二つの操作パネル装備 | |
本体温度を最適に保つ高度な空調システム | |
電子回路を内蔵したカスタム・チーズプレート標準装備 | |
工具なしで脱着可能なモジュラー式アクセサリー類 |
Millennium DXLは RED Weaponがベースになっています。ですが、なにしろ「Panavisionのカメラ」ですから大元の RED Weaponとは違い、そもそも “購入するもの” ではありません。レンタル専用。その上、ファイル形式は馴染みのある REDの .r3dであるにもかかわらず、(驚いたことに!)収録データは暗号化されるため、そのままでは市販の編集ソフトで開くことすらできない、完全なるプロプリエタリ仕様。
ああ、そうだった、そうだった。ハリウッドの映画製作現場で使われる本当のハイエンドカメラは、ボディ側面に誇らしげに「PANAVISION」ってロゴが入ってて。それは制作の度にレンズを含めてレンタルするもので。レンタルするとただ機材が届くだけじゃなく、常に最高のコンディションで撮影できるように必ず技術の人が随行してくるトータル・システムで…。
PANAVISIONのカメラとレンズのシステムって、レンタルすると一日幾らするんでしょう? ぼくは寡聞にして知らないですが、とにかく目の玉が飛び出るほど高額であることは間違いなく。ゆえに相当大規模な現場でもマスターカメラは常に1台というのが常識だった、と以前 DPの方に聞いたことがあります。その流れが変わったのは、『やはり REDの登場だった!』と。
その登場時、ハイエンドカメラ界の価格破壊神として知られた REDは、『DPが自分で購入して手元に置くハイエンドカメラ』という全く新しい価値観を提示しました。PANAVISIONのような、いわゆる “ターンキーシステム” とは真逆の思想。本体はセンサーを囲う箱にレンズマウントを付けただけ。バッテリーやビューファー、オーディオや各種 I/Oなど付帯機能は、必要に応じて後から付け足すモジュラースタイル。
REDの[低価格・高性能・モジュラー・小型軽量・オールデジタル]という概念の浸透に伴って、たとえば D.フィンチャー監督のような、マルチカメラで鬼の如きマルチテイク!な制作スタイルが実現されました。
photo courtesy of filmmakermagazine.com
そして、当初 “従来のやり方” を信望する多くの古参 DPから鼻で笑われた RED ONEの登場から10年、下克上の旗手であった REDは今、こともあろうにあの PANAVISIONと協業してカメラコアを提供する存在になりました。嗚呼、しかし!その1号機として登場した Millennium DXLを見てみれば、[オールデジタル]であることを除けば、思想も造形も、そこにはもはや[低価格・高性能・モジュラー・小型軽量]などなど、REDの起こした革命の美学は微塵も見受けられず。
これぞ運命の皮肉な巡り合わせと呼ばずして、なんと呼ぶべきか…。(^_^;)
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蛇足:RED Weaponをベースに PANAVISION Millennium DXLがこうして形になったのは、なんといっても Light Iron社のマイケル・チオーニ氏の存在が大きかったことは想像に難くありません。
今年 36歳(←たぶん)のチオーニ氏の名前を最初に耳にしたのは、2012年。D.フィンチャー監督付きの DIT 兼 ハリウッドで一番 REDのデジタルワークフローに詳しい新興ポスプロファームとして知られた Light Iron社の創設者。
ぼくは PRONEWSさんとこのコラムで、フィンチャー監督の「ドラゴンタトゥーの女」の 4Kデジタルワークフローに関して書いた時に、チオーニ氏の存在を知りました。
▶︎ PRONEWS : [raitank fountain] Vol.04 「ドラゴン・タトゥーの女」のデジタル4Kワークフロー
なにしろポスプロのボスですから、そんなに表に出てくる用事はない筈なんですが(笑)、チオーニさんの名前はその後も何度か海外の映像系サイトで目にしました。そんな氏の最後の動向が、『PANAVISION社、Light Iron社を吸収合併』という、2014年末に流れてきた衝撃のニュースだった事が忘れられません。
▶︎ Panavision : PANAVISION AGREES TO ACQUIRE LIGHT IRON
photo courtesy of panavision.com
2006年、RED登場時にいち早くその可能性を見抜き、まだようやくフルHDが一般化した当時からすでに 4K越え映像のハイエンド・ワークフローの標準化に向けて動いていた男、マイケル・チオーニ氏。彼が業界最重鎮 PANAVISION社の傘下に入った時、『えっ? Light Iron 絶好調なのになんで? 名門の名前が欲しかったか?』などと、先の読めない男=ぼくには彼の目論見がまるで理解できていませんでした(笑)。
4K時代を遥か手前で先読みした時同様、チオーニ氏は来たるべき 8Kハイエンド映像時代の到来に照準を合わせ、その標準化に王手をかけるべく動いたんですねぇ、若干 34歳で。しかもたった二年でこうしてちゃんと形にしてるし。いやあ、できる男は違うわ! (^_^;)
3 Comments
レンタル料金(推定)ありがとうございます..
レンズ入れたら(推定)で1日$20,000ぐらいいきそうですね(^^;
やはり「生涯縁がない」には違いないです ハイ..
しかし、レンズマウントが凄まじい大きさですね。オリジナルWEAPON 8Kはマウントそのものは、4本ネジ止めの既存のものが流用できる仕様が先行してましたけど..
65?っていうんでしょうか、えらく「でっかい有効径」のシネロックマウント!
WEAPON 8Kのセンサー有効サイズは 「対角ギリギリ スチルのフルサイズ」ってのを西華DIの営業さんから聞いてて..そうなると やはりフルサイズのスチルレンズベースの
「お安いシネマプライム」とかは4角が辛いかもしれないなーーって想像はしてたんですが
Panavisonさまは、伝統的にでっかいマウントの持ってたんですね(^^;;
やはり雲上の世界だなって思います。
詳細な解説ありがとうございます
間違いなく一生縁がない、雲の上のカメラ(^^;;
レンズもアナモル含めて用意してるでしょうか?
サマージャンボ1等当たれは 1週間ぐらいはレンタルできる?
そんな金額なんでしょうかね???
そうなんですよ〜、一生自分には縁がないカメラ。だけどコアは RED Weaponなんだ!?って驚きで、思わず記事を書いちゃいました。ちなみに、Panavisionシステムのレンタル料金ですが、さすがにそこまで高いわけではないようです(笑)。一つ前の Genesis(SONY CineAltaベースのFHDカメラ)で、たしか一日$4,000(レンズ別)くらいだと伺った記憶が。フルHDから 8Kにアップしたからといって、解像度と一緒に値段も4倍密!というわけでもないでしょうから、全くの推測ですが一日$10,000くらいではないでしょうかね? ま、Panavisionを使う最大の理由=Panavisionレンズを使いたいから!ということを考えると、レンズ代のほうがまたお高いに違いありませんが…。