グレーディング論争:ティール&オレンジ

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今回は、昨年末以来アチラ(海の向こうの映像クリエイター達のあいだ)で話題(…というか、ほとんど論争?)になっている、昨今のハリウッド映画を席巻する “Teal and Orange”(または “補色グレーディング” )について書こうと思います。

Tealとは “暗緑色がかった青色”、Orangeはオレンジ色のことですが、まずは上の写真を見てください。ご存知、映画「トランスフォーマー2」の一コマですが、ティールの背景をバックに、オレンジ色の主人公が立っています。同映画はここに抜き出したシーンに限らず、全篇すべてがこのティール&オレンジで彩られているようです。

…ふ〜ん。でも、このティールとオレンジってどこから出てきたわけ?

こちらは、Adobeがweb上で提供しているカラーテーマ作成ツール「kuler」のスクリーンショットです。誰でも知っているように、人間の “肌色” は赤から黄色にかけて… 言い換えれば、広義の「オレンジの色域」に集中していますが、そのオレンジを Base Color (基色)にした場合、「ティールはオレンジの補色(complementary color)」であることがわかります。そして色彩学的に、基色と補色を隣り合わせに並べると、基色が引き立つ(目立つ、浮き立つ)ことが知られています。

そう。つまり、映画のスクリーンに登場する要素の中で、常に最も重要な “人間” を最大限に目立たせる、際立たせる、浮き立たせるために…

背景の色味は肌色の補色にあたるティールにしてしまえばいいんじゃね?

という、なんとも単純な作戦だったんですね(笑)。



ところが、この「トランスフォーマー2」の補色グレーディング術は、またたく間にハリウッド中のカラリスト達の間で大流行!以来、テレビといわず、映画といわず、ハリウッド発の映像作品は、いつの間にかそのほとんどがこのティール&オレンジ一色(いや二色か)になってしまいましたとさ(今なお増殖中だそうです)。



視聴者としての僕らは映画やドラマを見る時に、いちいち「う〜ん。この色調の組み合わせは…?」などと考えながら見ることはありません(…よね?)。でも、プロ、セミプロを問わず、自身が映像を作っている多くの人たちの間では、いつしかこの補色グレーディングが広く知られるようになり、「Magic Bullet」シリーズを開発・販売している Red Giant Software社からは、定番の「Looks」とは別に、昨年この補色グレーディングに特化した「Magic Bullet Mojo」が登場するほど浸透してきています。



「Sin City」など、色彩の特異さが際立つ映画のビジュアルFXアドバイザーを務めた、Stu Maschwitz(スチュー・マシューウィッツ)さんという人がいます。この人、元々は特殊効果アーティストとして、あのILMに勤務されていたそうですが、一般には Red Giant Software社の「Magic Bullet Looks」や「Colorista II」など、業界定番ツール群の開発者として有名で、上記「Mojo」も、そしてこのところ何度か投稿のネタにしている「Grinder」も同じくStuさんプロデュースの製品です。

そのStuさん自らが「Looks」や「Mojo」を駆使して、上記「トランスフォーマー2」や「ターミネーター4」、「サブウェイ123」などに見られる補色グレーディングを実践的に教えてくれる動画がこちらに公開されています。
Red Giant TV:Episode 22

…というように大流行中のティール&オレンジですが、この配色は撮影時のナチュラルな色彩とは全く関係のない、カラー・グレーディングがデジタル100%になった現代なればこそのワザでもあるわけで、当然、この色調を好ましく思わない人も大勢います。

その急先鋒が編集者であり映像クリエイターでもある、Todd Miroさん。今年3月中旬、自身のブログ “Into the Abyss” に書いた「Teal and Orange – Hollywood, Please Stop the Madness(ティール&オレンジ – ハリウッドよ、この狂気をやめてくれ)」と題する投稿で、ハリウッド中にウイルスのように蔓延する補色グレーディングに対する嫌悪感を、幾分ユーモラスな筆致で綴っています。
Into the Abyss : Teal and Orange – Hollywood, Please Stop the Madness

“In fact, nothing ever has looked like that because it’s physically impossible. You see, in order to get flesh tones to look that warm and orangey, the entire image would look warm and orangey – like golden hour, just before sunset. And in order to get teals to look that blue and tealey, the entire image would look cold and blue – like at night. Never in real-life shall the two meet – at least not in this exaggerated way ”

(拙訳:[デジタル処理が台頭する以前は]実際、ティールとオレンジが一つの画面内に同居することは物理的に不可能だった。肌の色を暖かみのあるオレンジ系にしようと思ったら、当然、画面全体が日暮れ時のような暖かい色味になる。逆にティールの暗緑色を強調しようと思ったら、画面全体が夜のとばりのように青味がかる。つまり、現実の世界では[ここ最近の映画のように]ティールとオレンジが等しく強調されて目に入ってくることなど、あり得ない話なのだ)

特段、有名でもなかったToddさんでしたが、この投稿がクチコミで拡がり、補色グレーディングの流行を苦々しく眺めていた人たちがこぞって彼のブログに押し寄せて賛同コメントを書き込むようになり、一躍、彼と彼のブログは有名に。ついでに、ティール&オレンジを嫌っている人が、実はこんなに大勢いたんだ!ということも明らかになりました。

流行の補色グレーディング術の仕組みを教え、あまつさえ専用ツールを開発・販売する Stuさん。この流行が一日も早く終焉することを願って止まない Toddさん。好対照のお二人です。…が、いち早く Toddさんの投稿を読み「素晴らしい分析だね!」と自らのTwitterにリンクを書き込んで人々に知らしめ、今なお続くグレーディング論争を表に引っぱり出す口火を切ったのが、他ならぬ Stu さんであったことも記しておきます(なんだかちょっとイイ話?)。

Stuさんのブログ:ProLost

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